更新日:2023/12/07
目次
2016年11月に成立し、翌2017年11月に施行された外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(以下「技能実習法」という)。これにより従来の技能実習制度に大幅な変更が加えられました。
「以前の技能実習制度と、何が違うの?」「受け入れに当たって気を付けないといけないことは?」
そんな疑問について、本記事では技能実習法の内容に触れながら解説していきます。
技能実習法とは?
技能実習法は、従来の外国人技能実習制度を見直し、大きく変えた法律です。
技能実習法が作られた背景
技能実習制度は18歳以上の外国人を受け入れ、日本の産業上の技能・技術・知識をOJTで身に付けさせ、母国に持ち帰って活かしてもらうことで国際貢献をすることを目的としています。
1960年代に海外進出した日本企業の、「現地で雇用する外国人従業員を日本に呼んで直接の研修を行いたい」というニーズから、「外国人研修制度」が発足しました。
そして平成5年(1993年)から、受入機関との雇用関係の下に成立する「技能実習制度」が始まりました。
しかし、実習生を「単なる労働力を補充するための低賃金労働者」として扱うような受け入れが目立ち、様々な問題が起きていました。
そこで実習生を保護し、本来の目的に沿った活動を行うため、平成29年(2017年)に施行されたのが「技能実習法」(外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律)です。
第三条 技能実習は、技能等の適正な修得、習熟又は熟達のために整備され、かつ、技能実習生が技能実習に専念できるようにその保護を図る体制が確立された環境で行われなければならない。
2 技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない。
出典:技能実習法第3条 基本理念
技能実習制度の対象となる国は、(2020年4月1日時点)ベトナム・フィリピン・カンボジア・インドネシア・タイ・ミャンマー・ラオス・スリランカ・中国・モンゴル・インド・バングラデシュ・ブータン・ウズベキスタン・パキスタンの15か国で、現在ペルーについても確認中です。
(参考:JITCO 公益財団法人国際人材協力機構)
技能実習制度の関係機関
・外国人技能実習機構(OTIT)
技能実習法の施行に伴い平成29年1月に設立された、技能実習制度を取りまとめる組織です。
厚生労働省が所轄する認可法人で「技能実習の適正な実施と技能実習生の保護を図る」ことを目的にしています。
監理団体の許可、技能実習計画の認定、実習実施者への報告要求、検査、届出の受理等と同時に、技能実習生に対する相談や支援も行っています。
(参考:OTIT 外国人技能実習機構 HP)
・公益社団法人国際人材協力機構(JITCO)
技能実習生、特定技能外国人等の外国人材の受入れの促進を図り、国際経済社会の発展に寄与することを事業目的とした技能実習制度の総合支援機関です。
監理団体・実習実施者・送出機関等に対し、セミナーの開催、個別の相談対応、教材等の開発・提供などの各種支援サービスを行うほか、
主務大臣からの告示を受けた養成講習機関として、監理団体の監理責任者や実習実施者の技能実習責任者等に対する養成講習を実施しています。
・実習実施者
実際に技能実習生を受け入れ、実習を行う各企業のことです。
技能実習法の施行により、実習を開始した際には、所定の事項を外国人技能実習機構に届出ることが必要になりました。
(参考:技能実習法第2条第6項)
・監理団体
「団体監理型」の技能実習で、実際に実習生を受け入れる各企業と実習生の雇用関係の成立のあっせん、各事業所において技能実習が適正に行われているかの確認や指導(実習監理)を行う、主務大臣の許可を受けた非営利団体です。
現在、日本全国で約3,000団体以上が存在します。
(参考:技能実習法2条9項)
・海外の送り出し機関
技能実習生の母国にある、技能実習生の募集や教育を行い、日本の監理団体へと取り次ぐ機関です。
(参考:技能実習法第23条第2項6号)
受け入れ方と実習の進め方
ここからは技能実習制度の、受け入れと実習の内容を解説致します。
2通りの受け入れ方
技能実習生を受け入れるには2通りの方法があり、それぞれに受け入れ可能な人数の枠が設定されています。
外国人技能実習機構に「優良」と認められた実習実施者の場合は、受け入れ人数を原則よりも増やすことができます。
①企業単独型(技能実習イ) 主に大企業向け
この企業単独型で技能実習が行われることは少ないです。
企業内で行われるもので、海外の現地法人、合弁企業、取引先企業等事業場の関係を有する企業の社員を受け入れます。
受け入れ人数は、原則として受入企業の常勤職員が20人「につき」技能実習生1人です。
②団体監理型 (技能実習ロ) 中小企業向け
現在9割以上の技能実習が、この団体監理型で行われています。
事業協同組合が法務大臣の許可を受けて監理団体となり、その指導・監督の下に、傘下の企業などが技能実習生を受け入れます。
受け入れ人数は、原則として受入企業の常勤職員が30人「以下」であれば、技能実習生3人です。
受入企業の常勤職員総数により、31~40人であれば4人まで、41~50人であれば5人まで、と増えていきます。
3段階の技能実習 1~3号
技能実習には3段階のカリキュラムがあり、外国人技能実習機構に「優良」と認められた監理団体、実習実施者は、3号技能実習を行うことができます。
技能実習生が所定の試験に合格することで、1号→2号→3号と移行できます。
1号で1年、2号で2年、3号で2年と、技能実の期間は合計で最長5年です。
①技能実習1号
1年間のカリキュラムで、技能等を「修得」することが目的です。
はじめに「講習」による知識修得活動を、期間全体の6分の1以上行います。
(本国で1月かつ160時間以上の講習を受けた場合は、12分の1以上の期間となります。)
その後、雇用契約に基づく技能等修得活動を行います。
②技能実習2号
2年間のカリキュラムで、技能等を修得した者がその技能等に「習熟」することを目的とし、雇用契約に基づいた業務に従事します。
1号終了時に所定の試験(学科と実技)に合格し、在留資格変更許可を受けることで移行できます。
1号から2号へ移行可能な職種・業種は決まっており、85職種156作業(令和5年12月7日時点)があります。OTIT 外国人技能実習機構 技能実習制度 移行対象職種・作業一覧に詳細がありますので、ご参照下さいませ。
③技能実習3号
2年間のカリキュラムで、技能等に「熟達」することを目的として、雇用契約に基づいた業務に従事します。
外国人技能実習機構に「優良」と認められた監理団体、実習実施者だけが行える実習です。
2号終了時に所定の試験(実技)に合格することで移行できます。
2号から3号へ移行可能な職種・業種は、77職種135作業(令和5年12月7日時点)があります。
1号から2号への移行と違い、2号から3号に移行するためには、1ヶ月以上1年未満の一時帰国を行う必要があります。
監理団体の許可と技能実習計画の認定
技能実習法の施行により、外国人技能実習機構に「優良」と認められた監理団体、実習実施者は、
・受入れ人数を原則よりも増やすことができるようになり、
・3号技能実習として4~5年目の技能実習の実施が可能となりました。
優良と認められるには、技能評価試験の合格率や相談・支援体制等をポイントで評価し、120点満点の6割以上を満たすことが必要です。
ではこの「優良」の判断はどのタイミングで行われるのでしょうか?それを監理団体と実習実施者に分けて解説致します。
監理団体の許可
最も多い「団体監理型」の技能実習の実習監理を行うには、主務大臣の許可を得るため、外国人技能実習機構へ監理団体の許可申請を行い(技能実習法第23条)、必要な要件を満たして監理団体となる必要があります。
監理団体の「優良」の判断は、この許可の時にされます。
許可申請の方法についてはこちら→OTIT外国人技能実習機構 監理団体の許可申請手続きについて
許可申請の必要書類についてはこちら→ OTIT外国人技能実習機構 監理団体許可関係申請に係る提出書類一覧・確認表
許可には2種類があります。
①特定監理事業
技能実習1号~2号までを行うことができます。
②一般監理事業
これが「優良」な監理団体の許可です。技能実習1号~3号までを行うことができます。
許可申請の際に、「優良要件適合申告書(監理団体)」を同時に提出し、優良要件を満たしていれば、3号技能実習の実習監理を行うことができ、受け入れ人数枠が拡大されます。
監理団体の許可の要件は以下になります。
① 営利を目的としない法人であること
② 監理団体の業務の実施の基準に従って事業を適正に行うに足りる能力を有すること
③ 監理事業を健全に遂行するに足りる財産的基礎を有すること
④ 個人情報の適正な管理のため必要な措置を講じていること
⑤ 外部役員又は外部監査の措置を実施していること
⑥ 基準を満たす外国の送出機関と、技能実習生の取次ぎに係る契約を締結していること
⑦ 優良要件への適合(第3号技能実習の実習監理を行う場合)
⑧ ①~⑦のほか、監理事業を適正に遂行する能力を保持していること
出典:技能実習法第25条
実習実施者の技能実習計画の認定
実際に技能実習を行う各企業等の実習実施者は、1号~3号の技能実習それぞれが始まる前に、技能実習計画を立て、外国人技能実習機構の認定を受ける必要があります。
計画認定の申請は、実習開始予定日の6ヶ月前から受け付けています。
技能実習生1人ごとに作成が必要ということがポイントです。
実習実施者の「優良」の判断はこの技能実習計画認定の時にされます。
このとき、「優良要件適合申告書(実習実施者)」を同時に提出し、優良要件を満たしていれば、3号技能実習を行うことができるようになり、受け入れ人数枠が拡大されます。
団体監理型の技能実習を行う実習実施者は、監理団体の指導に基づいて技能実習計画を作成する必要があります。
計画の認定申請の方法、必要書類等についてはこちら→OTIT外国人技能実習機構 技能実習計画の認定申請手続きについて
また、こちらに技能実習計画の職種・作業別のモデル例がございますので、ご参照下さいませ。→厚生労働省 技能実習計画審査基準・技能実習実施計画書モデル例・技能実習評価試験試験基準
技能実習生の保護
技能実習制度が発足した平成5年以来、技能実習の現場では、
・実習生を最低賃金以下の賃金で働かせる、賃金未払いのまま働かせる
・実習生のパスポートを取り上げて事実上の強制労働をさせる
等様々な問題が起きていました。
禁止行為等
こうした問題を防ぐため、技能実習法の施行で、監理団体・実習実施者等を対象として、「禁止行為等」が法定化されました。これは「出入国管理および難民認定法」(入管法)や「労働安全衛生法」、「労働基準法」に不随する形で規定されています。
禁止行為の対象者は以下になります。
・「実習監理者等」
・「技能実習関係者」
・「実習実施者等」
主な禁止行為は以下になります。
・技能実習の強制
これが最も罪が重く、罰則は、1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金です。
実習監理を行う者又はその役員若しくは職員は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、技能実習生の意思に反して技能実習を強制してはならない。
出典:技能実習法第46条
以下に違反した場合の罰則は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金です。
・賠償予定
実習監理者等は、技能実習生等又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他技能実習生等と社会生活において密接な関係を有する者との間で、技能実習に係る契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
出典:技能実習法第47条1項
・強制貯蓄
実習監理者等は、技能実習生等に技能実習に係る契約に付随して貯蓄の契約をさせ、又は技能実習生等との間で貯蓄金を管理する契約をしてはならない。
出典:技能実習法第47条2項
・在留カードの保管
技能実習を行わせる者若しくは実習監理者又はこれらの役員若しくは職員は、技能実習生の旅券又は在留カードを保管してはならない。
出典:技能実習法第48条1項
・外出制限等
技能実習関係者は、技能実習生の外出その他の私生活の自由を不当に制限してはならない。
出典:技能実習法第48条2項
相談・通報・申告と現地調査
禁止行為等が法定化されたことに伴い、技能実習生からの相談・通報・申告の受付や、外国人技能実習機構による定期的な実地調査も行われるようになりました。
・通報・申告と不利益な取り扱い
外国人技能実習機構は、実習生からの相談を受けつける窓口を設けています。
実習実施者若しくは監理団体又はこれらの役員若しくは職員がこの法律又はこれに基づく命令の規定に違反する事実がある場合においては、技能実習生は、その事実を出入国在留管理庁長官及び厚生労働大臣に申告することができる。
出典:技能実習法第49条1項
もし実習生が相談・通報・申告を行ったからといって、それを理由に不当な取り扱いをすると、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の場合があります。
実習実施者等は、前項の申告をしたことを理由として、技能実習生に対して技能実習の中止その他不利益な取扱いをしてはならない。
出典:技能実習法第49条2項
実地調査
外国人技能実習機構は、監理団体に対し年1回、実習実施者に3年に1回程度の頻度で実地調査を行っています。
この時にチェックするものは、雇用契約書、雇用条件書、技能実習日誌、名簿、タイムカード、賃金台帳、社会保険等の加入状況、在留カード等です。
まとめ
本記事では技能実習法の概要を解説致しました。
技能実習法が施行されたことで技能実習制度は大きく変化しましたが、主なポイントは以下になります。
・外国人技能実習機構が創設された。
・監理団体が許可制になった。
・技能実習計画が認定制になった。
・「優良」要件と技能実習3号が追加された。
・実習実施者が実習を始めた際に届出が必要になった。
・実習生の保護が強まった。
本記事が、あなたのお役に立ちましたら幸いです。