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プログラマの考える福利厚生 設備投資編

目次

福利厚生というと社員旅行、家賃手当、育児手当、医療費負担などをイメージされる方が多いかと思います。その多くは仕事とは直接関係ないことに対して、給与とは別に費用を負担する、あるいは、大学のサークルのようなエンターテイメントやレクリエーションを通じて社内のコミュニティの性格を強めたりしたものです。

そういったイメージとは別に、プログラマの間で冗談半分に語られる福利厚生があります。

「リモートワークは福利厚生」

「業務中に音楽を聴いていいのは福利厚生」

「コーディング中に話しかけられないのは福利厚生」

「無駄な会議がないのは福利厚生」

「アーロンチェアは福利厚生」

のように、作業に集中できる環境が整っていたり、無駄な業務をしなくていい業務フローをプログラマの間で密かに「福利厚生」と呼んでいるのです。

「給与や業務内容以外でも魅力的に見える会社にしたいけど、わざわざ金を払って社員に喜ばれるかもわからない福利厚生を厚くしてもなあ」

と考える会社員や経営者の方もいらっしゃるかもしれません。本記事では、ちょっとした心掛けや設備投資でプログラマにとって快適で、生産性が向上する「福利厚生」を紹介します。

 

①満足感と不満足感は別軸

エンジニアの言うところの「福利厚生」の説明をする前に、ハーツバーグの二要因理論を紹介します。ハーツバーグの二要因理論とは、満足感の要因を「動機付け要因」、不満足感の要因を「衛生要因」の二つに分け、それぞれの二つは別軸としてカウントされるものだとした理論です。

素朴に考えると、満足感が高ければ不満足感が低く、不満足感が高ければ満足感が低い、というように満足感と不満足感は同一の軸の上にありそうな気がしますが、臨床心理学者ハーツバーグはそれぞれは別の軸として扱うことを提唱します。別々の軸として考えることで、職務上の環境向上やモチベーション管理が上手くいきます。

「動機付け要因」とは、プロジェクトの目的達成、昇進、責任、社会貢献などです。立てた目標をクリアしたり、自己実現をしたときに満足感を感じるもので、モチベーション上昇の要因とされます。

「衛生要因」は、作業環境、対人関係、人事評価などです。理不尽で時代遅れな考え方を押し付けてくる上司、不平等な評価基準、使いづらいソフトウェアでの作業などで、モチベーション低下の要因とされます。

「動機付け要因」にフォーカスしたアプローチだと

「今まで人類が達成したことのない技術的に困難なことを達成しよう」

「給料を今の5倍に増やそう」

など、簡単には実現できないことを掲げてしまいがちですが、「衛生要因」にフォーカスすれば

「作業中に注意をそらすものを減らそう」

「作業環境を快適にしよう」

と、ちょっとした設備投資や心掛けで生産性を向上させることができます。

Googleが福利厚生を手厚くしているのは、優秀な人材とまだ誰も実現したことのないをことを実現する、社員というだけで社会的ステータスが得られるなど「動機付け要因」だけでなく、不満を取り除く「衛生要因」にも配慮しているからです。Googleが結果を出し続けているのは高給で、やりがいのあるプロジェクトに参加でき、社会的ステータスも高く、優秀な同僚と仕事ができるというのはもちろんのこと、プログラマの生産性を低下させるようなメンタル面にまで気を配っているからです。そして、そのメンタル面のケアというはカウンセラーが常駐してるようなものではなく

「いい道具を買うことでより集中して良いものを作れる」

というものづくりの原点に回帰するものです。

 

②具体的な福利厚生

1. キーボードを自由に選べるようにする

キーボードはプログラマの最も多く触れているデバイスです。どのキーボードも基本的に同じようなキーがあり、

「あのキーボードじゃないと、この操作ができない」

ということは稀です。MacBook Proに搭載されているTouch Barも、基本的にはトラックパッド、マウス、従来のキーボードでできることをより簡単に直感的に行えるというだけのものがほとんどです。

しかし、キーボードによって、操作性が大きく異なります。ストロークが深ければ指の疲労を軽減できます。キーボードのUS配列とJIS配列でキーの並び方が違うため、自分の不慣れな方では思考の邪魔になります。Vimなどのキーバインドでよく使う操作を行っている場合には、キー配列が違うことで致命的に使いづらさを感じます。まるでPS4のコントローラを上下逆に持って、アクションゲームをプレイするようなものです。それぐらいキーボードというのは重要なものなのです。

キーボードにこだわりを持つ人の間で特に人気なのがHappy Hacking Keyboard(通称、HHKB)です。徹底的に無駄を削ぎ落としたキー配列で、テンキーはもちろん、十字キーまでカットされているモデルもあります。キーストロークが非常に深く、長時間タイプし続けても指が痛くなりません。心地よい打鍵感によって、ソフトウェア開発に集中できるでしょう。

参考記事

http://web.archive.org/web/20170425034631/http://hatenanews.com/articles/2017/04/25/113153

 

2017年のはてなエンジニアの愛用キーボード調査では見事1位を獲得しました。同率1位にMacBook Proのキーボードが挙がっていますが、これは外付けキーボードを使っていないことを意味しており、消極的な理由から使い続けていると考えられます。そのため、キーボードにこだわりを持っている人が真っ先に思い浮かべるのはHHKBだと思って間違いないでしょう。

HHKBのモデルの中には、キーに何も印字されていない無刻印キーボードもあるため、もし小さくて何も書かれていないキーボードを持っている人がいれば

「もしかして、HHKBですか」

と声を掛けてみると

「おっ、わかってるじゃん」

と思われるかもしれません。(ただし、集中してるときに話しかけないように)

 

2. 椅子をいいものに

プログラマは長時間イスに座って作業します。スタンディングデスクや、人をダメにするクッション、布団の中で作業する人もいるでしょうが、やはりメインはイスです。イスをいいものにすることによって、腰痛はもちろん、眼疲労や手首の疲れまで軽減できるので、集中力を落とさずに長時間作業できます。

有名なところではハーマンミラーのアーロンチェアがあります。このイスは機能面が優れているのはもちろんのこと、洗練されたデザインで、プログラマ以外の職種の方にも支持されています。実際、アメリカの高所得ホワイトカラーを描いた作品でさり気なく画面に映されていることで、ステータスの高さを表す小道具として使われるぐらいです。

漫画家の間でもアーロンチェアを愛用されている方が多く、尾田栄一郎、荒木飛呂彦、冨樫義博など名だたる漫画家が使用しているとも言われています。

 

参考記事

https://aruwana.com/office-chair-mangaka#i-5

 

そんなアーロンチェアは

「こんなイスに座って作業したい」

という夢の職場環境を彩ってくれる素晴らしいイスですが、プログラマ向けの商品は20万~30万ほどの価格帯で、それだけでBTOしたMacBook Proを購入できるほどです。流石に社員一人一人に30万円のイスを用意するのは大変かとは思います。

現実的な価格の話をすると、エンジニアを大切にしてると有名なベンチャー企業のオフィスを見学すると、大体7万円程度のイスを用意しているところが多いように思います。

オフィスに来たエンジニアが真っ先に注目するポイントでもあるので、導入を検討してはいかがでしょうか。

 

3. ノイズキャンセリング機能付きイアホン・ヘッドホン

イヤホンやヘッドホンというと

「音楽を聴いて、個人の世界に入り込むもの」

「あくまで好きな音楽を楽しむためのもので、仕事中につけるものじゃない」

と思う人もいるかもしれませんが、音楽を聴くことで、むしろ、コーディングに集中できるし、生産性が上がるというプログラマは多いです。その意味で業務中に音楽を聴けることは福利厚生の一つです。

音楽と同様にプログラマが福利厚生と考えているものとしては、ノイズキャンセリング機能付きのイヤホンやヘッドホンの着用です。コーディングで行き詰まったときに日本語や英語を読み込まないといけないときは音楽がかかっているよりも無音の方が集中できます。

AppleのAirPods ProやSONYのWH-1000XM2 Bなど、ここ数年でノイズキャンセリング機能が格段に向上したイヤホンやヘッドホンが登場しており、これなしでは仕事にならないというプログラマもいるぐらいです。

「自分の好きな音を聴きながら作業に集中できる」

「自分の望まない音を聴かずに作業に没頭できる」

というのは、プログラマにとっては非常に重要な福利厚生です。

 

4. メモリ

パソコンのスペックを決める部品は数多くあります。CPUの品番とクロック数、SSDの容量とデータの転送速度、GPUのベンチマーク性能とTDP、ディスプレイのサイズと解像度、内蔵バッテリーの駆動時間、キートップの安定性、コネクタの種類と数、etc.

その中でもとりわけ、目に見えて快適さに直結するのがメモリです。

パソコンの処理はキッチンによく喩えられます。CPUは包丁の切れ味、SSDやHDDなどのストレージは冷蔵庫の大きさ、そしてメモリはまな板の広さです。メモリが大きくなればなるほど、同時に処理できる範囲が広がります。一番それを実感できるのはブラウザでしょう。ブラウザで大量のタブを開いているときに、パソコンがもたつくようになったと感じた経験があるかと思いますが、あれはメモリの不足が原因です。CPUやSSDのスペックを上げても、あまり動作感は変わりません。(ただし、仮想メモリをSSD上に設定すれば、メモリの不足分を補うようにすることもできます)

厳密に考えると例外は多々ありますが、全体の傾向としてメモリの不足が作業環境のボトルネックになっていることが多く、ここをケチると一気に作業効率が下がります。

プログラマの間では

「メモリ4GBは人権がない」

「高い人件費を払ってる人材にしょぼいマシンで仕事をさせるのは金をドブに捨てているようなもの。誰も幸せにならない」

「機械学習の重たい処理を走らせるから、巨大なマトリクスを処理するのにでかいメモリが必要」

「同時並行でアプリを開いているから貧弱なメモリしか積んでいない作業じゃ仕事にならない」

とよく言われます。CPUは何年も前からIntelのCore i3 ~ Core i7あたりを搭載されるのが当たり前になってきているので、CeleronやPentiumなどは中古品やよっぽど安物を買わない限り搭載されません。つまり、常識的な設備投資をしていればCPUのスペックの低さが槍玉に挙がることは少ないのです。

3Dレンダリングや、C++のコンパイルなど、CPUがボトルネックになる作業もありますが、そうした作業を業務で活発に行なっているところは限られているので、かえって設備投資の面で理解があるところが多く、あまり問題になりません。

一方でメモリは容量が一目瞭然で、明示的なスペックと作業感が直結しやすく、また、あらゆる作業に直結しやすいがために、不満を持たれやすいのです。

2020年4月現在ですと、基本的にはメモリは最低8GB、大量のアプリを同時に開くような使い方をするなら32~64GB、機械学習や数値計算などで大量のデータを扱うなら128GB以上積むようにすれば、メモリの少なさでプログラマに文句を言われたり、ネット上で

「あの企業は最低限の作業環境を与えず、優秀なプログラマの能力を発揮する機会を奪っている」

と炎上するリスクを減らすことができます。

 

5. ディスプレイ

ディスプレイに投資すると生産性が上がるのは言うまでもありません。ソースコードの表示だけではなく、参考資料を表示する用、パケットキャプチャ用などを考え出すとディスプレイは3枚程度あったほうがいいでしょう。

目から遠くの位置に参考資料を並べるためのディスプレイならフルHDでも問題ないでしょうが、ソースコードを表示させるなど、細かい文字を大量に表示させたいときは最低でも4Kの解像度は必要です。

また、ディスプレイを回転させて縦置きと横置きを変更できるものもあるので、作業机が狭い場合は縦長のディスプレイを用意するとより生産性が向上するかもしれません。

 

③まとめ

満足と不満足は別軸です。技術的に面白いプロジェクトに参加したり、高い社会的ステータスを得られるような会社で働いていたとしても、それだけで不満足がなくなるわけではありません。不満足によって、些細なことに意識が向かってしまい、生産性が落ちるリスクがあります。本記事では、キーボードやディスプレイなど、プログラマが何かを作る上で重要になる備品に焦点を絞りました。次回は、「気遣い」に焦点を当てます。

 
 

東京都の高校卒業後、ニュージーランドの大学へ進学。在学中はフットサルサークルに所属観光学を専攻。卒業後、日本での外国籍人材の活用を通してダイバーシティ化を実現するというビジョンに共感し新卒でリフト株式会社に入社。現在はマーケティングを担当。

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