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更新日:2021/08/03

目次

記事top画 (1)

令和2年10月9日に、厚生労働省労働基準監督課より、「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況 平成31年・令和元年)」が発表されました。

監督指導、送検の概要としては、下記の3点が挙げられています。

1)労働基準関係法令違反が認められた実習実施者は、監督指導を実施した9,455事業場(実習実施者)のうち6,796事業場(71.9%)。

2)主な違反事項は、以下の順に多かった。

①労働時間(21.5%)、

②使用する機械に対して講ずべき措置などの安全基準(20.9%)、

③割増賃金の支払(16.3%) 

3)重大・悪質な労働基準関係法令違反により送検したのは34件。

詳細は厚生労働省のHPをご覧ください。

この公表を受けて、SNS等では「技能実習生は過酷な労働環境で働かされており、そういったことを助長している技能実習制度は問題のある制度である」と言ったコメントや感想を、外国人雇用業界関係者の方々をはじめ、様々な方が発信しておられます。

この公表は毎年されており「技能実習制度は問題がある」という意見や見解が発表される際に、根拠として引用されるケースが多々見られます。

「技能実習生を受け入れている70%超の企業で労基法の違反が見つかった」

⇒「企業が技能実習制度を悪用して、実に70%の技能実習生が過酷な労働環境で働いている」

⇒「このような悪用を生む、技能実習制度はとんでもない制度だ!」

というような流れになるのは勿論当然だと思いますし、この記事で初めて上記の情報に接した方も同じように考えられる方が多いでしょう。

ただし、この流れは「多くの企業ではより労基法が遵守されている」ことが前提となっています。

また「労基法違反」というパワーワードが一人歩きしているようなきらいもあります。

例えば「日本の企業全体では、労基法違反は30%程度しか見られない」にも関わらず、 「技能実習生受入れ企業では70%超が違反をしている」のであれば、上記の思考はロジックとして成り立つでしょう。

「では、実際にはどうなのだろうか?」ということを考えてみるのが、今回の記事の主旨です。

私自身、外国人材の受入れに長年取り組む中で、技能実習生や受け入れ企業に多く接し、制度の課題点、問題点について思うところも多くあります。ただ、一方で、真摯に技能実習制度や技能実習生に向き合う企業や監理団体、技能実習制度を活用することで自分の人生を大きくプラスに変えることができた外国人材と多く関わってきた経験があり、毎年この公表がなされる度に、少し公平ではない発表の仕方だなという感想を持っています。

そこで、今回は、個人的な経験・体験に基づく感想ではなく、その他の厚生労働省統計等も確認しながら、上述の「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況 平成31年・令和元年)」について、俯瞰的に考察してみたいと思います。

「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況」とは?

まずは、今回のリリースのメインとなる統計を見て行きます。

なお下記の記事内では、今回の「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況 平成31年・令和元年)」について、「実習実施者に対する監督指導等公表」と記載致しますのでご了承ください。また、実習実施者とは、技能実習生を受け入れている企業のことを指します。

今回の実習実施者に対する監督指導等公表の中で、メインとなるのは、全国の労働基準監督署が、技能実習生を雇用している企業に、9,455件の監督指導を実施した結果、6,796件の労働基準関係法令違反があったということです。

また、同じ統計は平成24年から毎年公表されている為、最新の情報までの推移を表とグラフに纏めました。

【実習実施者における監督指導数と違反事業場結果】

(「実習実施者に対する監督指導等公表」よりリフト株式会社で作成)

違反率が70%つまり3社のうち2社と考えると、とんでもない状態だという印象を持ちます。

また、監督指導実施事業所数に対する違反事業場数の割合は、平成24年からは減少しているものの、ここ数年約70%で推移しており、改善がされてないようにも見えます。

しかし、よく資料を見てみると、下記のような一文があることに気づきます。

<注>違反は実習実施者に認められたものであり、日本人労働者に関する違反も含まれる。

これは「監督指導の結果、70%の事業所で違反があったが、その違反は技能実習生を対象としたものに限定されているわけではない」ということです。

概要だけを見てしまうと「70%を超える企業であった違反が、全て技能実習生に対するものである」と誤解を生みやすいのではないでしょうか?

そうなると当然気になるのは、この統計のうち、「実際に技能実習生を対象にした違反はどの程度の割合なのか?」ということです。

この割合は「技能実習制度の中で、技能実習生が不当に扱われているのか?」という疑問の解決の為には重要なことですが、残念なことに、この割合は資料の中に記載がなく、正確な数字を把握することは出来ません。

「労働基準監督年報」との比較

正確にどの程度、技能実習生への労基法違反があったのか分からないのは残念ですが、これを類推するために、「技能実習に関係なく、日本国内の企業全体でどの程度違反が有ったのか?」を調べ、実習実施者の違反率との差異を確認してみることにします。

技能実習を雇用している実習実施者の違反率と、日本国内の全企業の違反率を比較することで、乱暴な考え方ですが、その差異を、技能実習生に対する労基法違反の割合を考える上で参考にしてみようという考えになります。

その為、厚生労働省が毎年公表している「労働基準監督年報」を確認してみました。この資料は、技能実習制度と関係なく、厚生労働省労働基準局が労働基準行政の活動状況を公表しているものです。

平成30年度が最新となっていますので、統計を遡って実習実施者の違反率と全事業所の違反率を年次で比較をしたのが下記の表とグラフになります。

実習実施者 全企業 労働基準違反率 年次比較

(「実習実施者に対する監督指導等公表」「労働基準監督年報」よりリフト株式会社で作成)

最新平成30年度の統計によれば、監督指導が行われた事業所が136,281で、違反事業場が93,008、違反率は68.25%となっています。

「実習実施者に対する監督指導等公表」に記載されている平成30年度の数字と比べると、差異は2.11%でした。つまり、技能実習生を雇用している企業の方が2.11%違反率が高いという結果です。

ただし、労働基準監督年報の全事業所の中には、金融業や通信業等、技能実習生の対象ではなく、且つ、違反率が低い業種も含まれていますので(金融業 32.8% 通信業 26.7%等)、業種、業界を同一として比較した場合の実際の違反率の差は、2.11%よりも少ないものと考えることが出来ます。

グラフをみれば良く分かりますが、ここ数年で実習実施者と全企業の違反率の差異はかなり縮まっています。後述しますが、この間には、技能実習新法が施行されたり、外国人技能実習機構設立による体制の強化がありましたので、立法、行政の改善努力と結びつく形となっています。

また、「実習実施者に対する監督指導等公表」には、業種毎の違反率が出ています。これを「実習実施者に対する監督指導等公表」30年度の数字と比較をしたのが下記になります。

実習実施者 全企業 業種別違反率 比較

(平成30年度「実習実施者に対する監督指導等公表」「労働基準監督年報」よりリフト株式会社で作成)

結果は、「食料品製造」と「建設」では、全企業よりも技能実習実施者の違反率が高くなっていますが、逆に「機械・金属」と「繊維・衣服」、「農業」では、技能実習実施者の方が全企業よりも違反率が低いという結果となりました。

「建設」では6%を超える違反率の上昇が見られましたが、逆に「機械・金属」で4%超、「繊維・衣服」では7.9%、「農業」では4.5%技能実習実施者の方が低くなっています。

単純に統計数値上で考えれば、機械・金属、繊維・衣服等の製造業や、農業等では、(低いレベルの争いではあったとしても)技能実習を受け入れている企業の方が労働基準法違反率が低いということです。

これは、多くの方にとってかなり意外な結果ではないでしょうか?統計の報道の印象とは真逆と言っても良いと思います。

更に、違反率だけに注目をするのではなく、違反の軽重についても見て行きます。

「実習実施者に対する監督指導等公表」の中の「3 送検の状況」を見てみると、「技能実習生に関する重大・悪質な労働基準関係法令違反が認められた事案として、労働基準監督機関が送検した件数は34 件であった。」という記載があります。(数字は令和1年度)

労働基準法において「送検」がどのような意味を持つのか、正しい見解は法律の専門家の方にご確認頂くとして、上記の記載を読めば少なくとも「重大・悪質な違反 ⇒ 送検」という因果関係が分かります。

そこで、監督指導を受けた実習実施者の中で送検された事業所の割合と、監督指導を受けた全事業所の中で送検された割合を送検率として比較してみたいと思います。送検率が高ければ、違反の中でも重大・悪質な違反が多いということになります。

実習実施者 全企業 送検率 比較

(「実習実施者に対する監督指導等公表」「労働基準監督年報」よりリフト株式会社で作成)
 

こちらも平成27年度平成28年度のように実習実施者の送検率が上回っている年もありますが、概ね全事業所の平均を下回っており、寧ろ重大な違反に当たる送検は、技能実習生を受け入れている企業の方が少ないという結果になっています。

実習実施者に対する、監督指導実施事業所数また、違反事業場数からの送検率の推移は下記の通りです。

実習実施者 送検率 推移

(「実習実施者に対する監督指導等公表」よりリフト株式会社で作成)

監督指導を実施された実習実施者=実習生受入れ企業の中で、重大・悪質な違反として送検された企業は、直近の令和1年度で0.36%、つまり1,000社に4社という割合です。

「重大・悪質な違反 ⇒ 送検」という因果関係を逆に考えれば、「送検には至っていない違反 ⇒ そこまで重大・悪質ではない」と考えることも出来ます。

監督指導の結果、違反が見つかった事業所のうち送検されたのは0.50%です。つまり、実習実施者の中で労基法に違反したと今回の「実習実施者に対する監督指導等公表」で分類された企業のうち、99.5%の企業は「送検されるまでではない違反」であったと言い換えることが出来ます。

つまり、

「技能実習生を受け入れている企業のうち、70%が労基法に違反していた」

「但し、そのうちの99.5%は送検にはならない程の重大、悪質ではない違反だった」

「また、違反があった企業の割合や送検された企業の割合も全事業所平均と大きな隔たりなかった」

というのが統計から見えてくる結果となりました。

「労働基準監督機関と出入国管理 機関等との相互通報の状況」からわかること

最後に「実習実施者に対する監督指導等公表」資料のうち、「実習実施者に対する監督指導等公表」という項を見てみましょう。

この項の中身は、技能実習生の労働条件の確保を図るため、労働基準監督機関と、出入国管理機関・外国人技能実習機構(以下、入管・機構と記載します)との間で、監督などの結果をお互いに通報しあっているという内容で、この数字の推移の状況報告です。

相互通報件数 推移

(「実習実施者に対する監督指導等公表」よりリフト株式会社で作成)

この表を見て、一番注目するべきは、令和1年度の入管・機構からの労働基準監督機関への通報が前年から比較にならない程増加していることです。

「実習実施者に対する監督指導等公表」の中で、この増加の理由として『平成31年・令和元年については、法務省「技能実習制度の運用に関するプロジェクトチーム」における技能実習生の失踪事案に関する実態調査に基づき通報された事案1,555 件を含む。』という記載があります。

要するに法務省がプロジェクトチームを組んで、失踪した技能実習生の実態調査をした結果、労働基準監督機関に通報したケースが1,555件あるということです。

しかし、この1555件を差し引いても、約1000件程度が通報されており、平成30年度が約40件だったことを考えると、約25倍となる大きな増加です。

この増加の理由として思い当たるのは、平成29年11月に施行された「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」と、その運用を定めた「技能実習制度運用要領」の内容です。

詳細はリンク先からご確認を頂けますが、その中に

監理団体は、是正指示を行った場合において、当該是正指示が労働基準関係法令 を含むものであるときには当該監理団体の所在地を管轄する労働基準監督署に対し て、その他のときには当該所在地を管轄する都道府県労働局職業安定部訓練課(室) に対してそれぞれ通報(任意様式)しなければなりません。この通報については、監理 団体の指導の下で、実習実施者に改善に向けた取組みを行わせることが求められるも のであり、当該通報を受けた行政機関は当該指導が不適切であると判断する場合等 に当該監理団体に対して指導を行うことになります。

第17節 監理責任者の設置等(技能実習法第40条)

という一節があります。

この内容を噛み砕いて言えば、実習実施者を監理する監理団体は、3か月に1回行う法定の監理業務の中で、労働基準違反を把握した場合、労働基準監督機関に報告をしなければならないということです。

これは、監理団体が直接、労働基準監督機関に報告するということですので、入管や機構から労働基準監督機関への通報の増加に直接的に繋がっている訳ではありませんが、当然、3か月に1度行う機構への監査報告には労働基準違反についても同様に報告がされる為、間接的に相互通報の増加に寄与していることは想像に難くありません。

なぜ、平成29年に施行された法律の効果が2年遅れて出ているのかという疑問もあろうかと思いますが、これは新しい法律が一斉に全ての技能実習生に適用された訳ではなく、旧法で在留していた技能実習生が多数残っていた過渡期が存在していたことや、法律の施行とその運用までのタイムラグが起こることを考えると妥当なズレだと思われます。

私とお付き合いのある監理団体の方々は、この運用要領の内容を意識をして動かれており、ここ数年、かなり労働基準法の勉強をされている印象があります。

また、先述の法務省「技能実習制度の運用に関するプロジェクトチーム」の運用においても、実際に実習実施者との連絡や資料の提出等を通じて、監理団体が一次的な動きをしており、このプロジェクトの推進に貢献しているのが実際のところです。

この「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」=技能実習新法の施行と、外国人技能実習機構の設置、それに伴う監理団体の意識変化と、労働基準法違反に対する報告義務化は、全て技能実習生の保護、労働環境の改善として連動している動きです。

実習実施者の違反率や送検率の推移に改善傾向が見られ、上述の通り全事業者との比較を見ても大きな差異が無いという現状は、この法律の施行とそれに伴う一連の動きの結果が少なからず影響をしているでしょう。つまり、技能実習制度の改善に、行政と監理団体が向き合った結果が出始めていると言い得るのではないでしょうか?

【実習実施者 全企業 労働基準違反率 送検率 年次比較】

       

(「実習実施者に対する監督指導等公表」「労働基準監督年報」よりリフト株式会社で作成)

技能実習制度の変化と今後

ご存知の方も多いでしょうが、技能実習生を受入れる企業は、監理団体に3か月おきに監査を受ける必要があります。新法では、監査の中で軽微なものも含めて労働基準法違反があった場合には、指摘を受け改善をする必要があります。

また、労働基準法の違反は監理団体を通じて労働基準監督機関に報告がされ、労働基準監督機関も企業への監督を実施します。

この体制においては、技能実習生を受け入れていない企業よりも、技能実習生を受け入れている企業の方が、かえって労働基準法の遵守において厳しい運用が求められています。

これが維持されていけば、技能実習生受入れ企業の方が、恒常的に、国内の全事業所よりも労働基準法違反率が低いという状態が早晩訪れるのではないでしょうか?

勿論、まだまだ多くの実習実施者で重大な違反があり、それを指摘し改善できないどころか、隠ぺいするような監理団体も残念ながら存在するようですが、外国人技能実習機構もそうした監理団体の摘発に動いており、監理団体の許認可取り消しも進んでいます。

近年では監理団体の数も増え、監理団体間の競争も進んでいます。また、大手人材会社が特定技能制度の創設と併せて、協同組合の設立や買収を通じて実質的に技能実習の業界に参入し始めています。当然、選ばれる監理団体と選ばれない監理団体に分かれることになり、競争と淘汰を通じて、業界全体のブラッシュアップが進むでしょう。

今回の記事のテーマであった公表のニュースを見て、「技能実習受入れ企業のうち、70%が労働基準法違反をしている!」とだけ聞けば、とんでもない制度だという感想になるかもしれません。また、読者様の中でも、まだまだ技能実習制度に対してネガティブな印象をお持ちの方もいらっしゃると思います。

しかし、

「技能実習関係なく、日本の全企業の平均で68%が違反していました」

「送検を伴うような重大な違反のあった会社は実習実施者のうち0.37%でした 一方日本の全企業では0.96%でした」

という情報が並列であると、印象が変わる方もいらっしゃるのではないでしょうか?

ネガティブなイメージが先行している技能実習業界も、上記の通り、技能実習新法の施行や外国人技能実習機構の設立、特定技能の創設、大手企業の進出等で、大きく変化しています。その変化はますます今後加速して行くでしょう。

そして、労働統計から見れば、その変化は技能実習生にとっては好ましいもののようです。

勿論、技能実習制度にはまだまだ問題点が多く改善が必要だというのが私の意見ですし、「日本の多くの企業で違反をしているから、実習実施者が違反していても良いだろう」ということが言いたい訳ではありません。

本記事の読者の方々は、外国人雇用に関心のある方、又は、携わられている方が大半だと思いますが、これまでの外国人雇用業界は、中長期に働ける高度人材の領域を専門にされておられる方と、技能実習を中心に短期間のブルーワークの領域を担当されておられる方に二極化されている印象がありました。

その二極化されていた領域の中間に特定技能制度が創設されましたが、特定技能制度を上手く活用をして行くためには、高度人材に対する知識、見識と技能実習に対する知識、見識の両方を持ち合わせて行く必要があるというのが、私の意見です。

「外国人の方に日本でいかに活躍して頂けるか」「活躍して頂く環境を作ることが出来るのか」が、リフト株式会社が取り組んでいる課題です。

今回の記事は、統計を見て行くことで、技能実習制度に対する古い考え方、又は一部だけを見た考え方に対して、「実はそうではないのではないですか?」という一石を投じる形になりましたが、皆様方が日々外国人雇用を考え、改善されていく為の一助になれば幸いです。

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