更新日:2021/08/03
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(左からギアさん、髙橋社長)
東京都練馬区にある有限会社光工業では、2016年からベトナム人技能実習生を受け入れている。同社でもうすぐ5年間の技能実習を終えるVu Phu Nghiaさん(以下「ギアさん」)によれば、社長を始めとした職員との人間関係が良く、安心感のある職場環境が魅力だという。
就職先として敬遠されがちな建設業で、どのような体制を整えれば人材を惹きつけることができるのか?
ギアさんと同社代表取締役の髙橋透修氏(以下「髙橋社長」)のお話から探っていきたい。
会社の人と話すのが一番楽しい
ーーまず、ギアさんにお伺いします。技能実習生になるまでは、ベトナムで何をしていたのですか?
ギアさん:2年間、軍隊に入っていました。その後は、高層ビルのガラス掃除や建設現場の仕事をしていました。
ーーなぜ技能実習に来ようと思いましたか?
ギアさん:技能実習から帰ってきた近所の友人の生活がとても良くなっているのを見て興味を持ちました。僕の家庭も経済的に余裕がなく、何とかしたいと思っていたので。
ーー日本に来て大変だったことはありますか?
ギアさん:日本語が分からなくて大変でした。ベトナムでも勉強はしていたのですが、ベトナムの先生が教えてくれた日本語と実際に日本人が話している日本語は全然違いました。スピードとか言い回しとか。最初は、日本語が分からなくて、仕事を覚えるのも大変でした。
ーーどれくらいで慣れてきましたか?
ギアさん:3ヶ月くらいですね。
ーーどのようにして日本語を話せるようになったのですか?
ギアさん:日本語に関しては、動画教材がたくさんあるので、それを見て独学していました。そして何よりも、仕事中になるべく日本人と話すようにしていました。
ーーギアさんは、後輩の実習生と一緒に住んでいたと思いますが、生活面で問題はありませんでしたか?
ギアさん:どんなに仲が良くても、一緒に住んでいると小さなイザコザは出てきます。ただ、しっかりと話し合っていたので、大きなトラブルにはなりませんでした。
ーー色々と大変なことやトラブルもあったと思いますが、日本に来て楽しかったことはありますか?
ギアさん:先生と話したり、冗談を言い合ったりするのが楽しいです。
ーー先生?
ギアさん:現場の職長です。いろいろ教えてくれるから「先生」。
ーーどこかへ遊びに行ったりは?
ギアさん:行きましたけど、やっぱり、先生とか会社の人と話すのが一番楽しいですね。
ーー建設業の会社を嫌がる実習生も多いと聞きます。ギアさんは、会社の先輩や上司と話すことが楽しいとのことですが、どんな会社であれば、みんな働きたいと思うでしょうか?
ギアさん:気軽に相談できたり、楽しく話したりできる雰囲気をつくることが大事だと思います。
ーー人間関係が大事ということですね。
ギアさん:はい、そうですね。
ーー3年の延長を終え、2年間延長したのも会社の居心地が良かったからですか?
ギアさん:はい。それと経済的にも余裕ができるし、経験ももう少し積みたいと思ったからです。
ーーその2年間の延長期間もそろそろ終わりますが、ベトナム帰国後に何をするか決まっているのですか?
ギアさん:車を買ってタクシーの仕事をするか、雑貨店を経営するか...いろいろ考えています。
ーー最後に、5年間の技能実習の総括をお願いします!
ギアさん:日本人の働く姿勢を学べたのが良かったです。ベトナムだと歌いながら仕事をしたり、細かいところは気にしなかったり、といい加減な部分があるんですが、日本の職人は、細かいところまで手を抜かずに丁寧に仕事をしていました。僕もそういう働き方を身に付けられたと思います。
あと、日本の生活はとても便利で良かったです。交通機関も発達しているし、必要な物はどこでもすぐに買えるし。
ーーありがとうございます!
「外国人だから」というのは意識しすぎない方が良い
ーー続いて髙橋社長にお話を伺います。1期生であるギアさんを採用されて5年経ちますが、初めて実習生を面接された時の印象から教えてください。
髙橋社長:口頭面接と体力試験、それと技能試験もしたんですけど、あまり意味はないかなと思いました。みんな猫かぶって、同じような感じですし。そういう試験よりも、ギアがニコッと笑って、こっちを見てたのが印象に残っています。
ーー選考基準とかはあったのですか?
髙橋社長:最初は、「動きが良いかどうか」っていう見方をしていたけど、結局は、目で訴えてくるような部分が大事かなと思いますね。
ーーそれこそ、ギアさんの笑顔のような?
髙橋社長:そうですね。最終的には。
ーー初めてギアさんが日本に来た時の感想は?
髙橋社長:やっぱり日本語がね、大変だなと思いました。ベトナムで勉強してきているとはいえ、授業では、ゆっくり、丁寧な話し方で教えていると思うんですよね。でも、現場だと慌ただしくて、ゆっくり説明もできず、早口になってしまうので。。日本人でも聞き取れない人もいますからね。ベトナムの人であれば尚更ですよね。
ーーとなると、やはり苦労した点はコミュニケーションでしょうか?
髙橋社長:そうですね。あとは制度的なところですよね。現場に入る時、ゼネコンによって書類が違うとか色々煩雑なところはあるので。
ーー先程、ギアさんが「職場環境が良かった」と仰っていましたが、受け入れ体制を整備するにあたって何か意識されていたのでしょうか?
髙橋社長:やる気がなくなってしまわないように、というのは意識しました。「3年、5年は短い」といっても、1日1日は長いですからね。お互いに嫌な気分になってしまったら続かなくなってしまいますよ。
そういう意味でやっぱり、職場の人間関係とお金は大切ですね。
ーーお金でいうと、御社は定期的に昇給がありましたよね。
髙橋社長:それは当然ですね。一人ひとりの頑張りに応じてね。技能移転という理念はあるにしろ、実習生たちは、お金を稼ぎたいと思っているし、実際に戦力になっているわけだから。学んで、技能が身に付いたら賃金は上げていかないといけないですよ。頑張ったら賃金が上がるって分かっていたら、さらに頑張ろうと思ってもらえるしね。
ーー最初、日本語が通じない中で人間関係を築くのは大変だったのではないですか?
髙橋社長:最初はね。でも、言葉が通じないという違いはあるにしろ、それ以外は日本人と一緒ですから。仕事をする上で国籍は関係ないですし。
質問の内容が分かるまでじっくり聞いて、相手が分かるまで何度も説明するようにというのを心掛けてコミュニケーションを取っていくうちに、良い関係ができていったと思います。
ーーなるほど。大変だった時期を超えて、今では3期生まで採用されていますが、1期生の頃と変わったことはありますか?
髙橋社長:もちろん、日本語が通じないとか、人によって問題はあるんですけど、先輩が日本語も仕事も教えていけるような立場になってくれているから、一番最初よりは色々とハードルが下がってますね。1期生がギアで本当に良かったですよ。
ーー近年、ベトナムから他の送出し国にシフトチェンジしている会社さんが多いですが、御社は検討されていますか?
高橋社長:それはないですね。せっかく0からベトナムの方と関係を築いてきましたから。
ーーこれからも引き続き外国人材を採用されるかと思いますが、どんな人材に来てほしいですか?
髙橋社長:誰とでも積極的に話そうとする方が良いですね。日本語や仕事を覚えるにしても人と話すのが一番ですから。それに、ギアも言ってたけど、やっぱり人と話すのって楽しいことだと思うので。
ーー社長にとって外国人材と働くとは?
高橋社長:日本語が伝わりにくいとこ以外は、「外国人だから」というのは全くないです。仕事をしていく上では何の問題もないので。あまり、実習生だからどうこう、外国人だからどうこう、というのは意識しすぎない方が良いんじゃないかな。
少子高齢化が進んで、日本人の若者が建設業に就こうとしない現状があるわけだから、建設業で働こうと思ってくれる外国人を、もっと受け入れる体制を整えていくべきですよね。
周りでも「いくら仕事を教えても3年、5年で帰ってしまうから、ちょっとね。。」って仰る会社さんが多いんですよ。でも、その3年間、5年間って、すごく大事だと思うんですよね。建設業にとって人材の力って何物にも変えられないから。たとえ3年で帰ってしまうとしても、その1人がいることで生まれるメリットって相当大きいはずですよ。