更新日:2021/05/07
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2019の12月に「特定技能」で今後5年間で最大34.5万人の外国人を日本に呼び込む政府方針が打ち出されました。この方針に対して、受け入れた外国人の待遇について様々な議論がなされています。しかし、今回考えていきたいのは、そもそも日本は34.5万人もの外国人を惹きつけられるのか?ということです。本記事では、このままでは日本が外国人材に選ばれなくなっていく理由と企業が取るべき施策についてお伝えします。
外国人労働者にとって日本が魅力的ではなくなる3つの理由
①母国の賃金水準の上昇
現在日本に在留している外国人技能実習生の出身国はベトナムと中国でその6割を占めています。
(法務省「国籍・地域別 在留資格(在留目的)別 総在留外国人」より作成)
この上位送出し国であるベトナム・中国両国の最低賃金の上昇率の高さは注目に値します(下図)。
(上のグラフが上海、下のグラフが北京を表している。)
(各種統計より作成 ©︎Lift.inc)
2014年〜2018年の最低賃金の伸び率を見ると、ベトナムが153.9%、上海が151.4%、北京が132.9%であるのに対し、日本は110.9%となっています。各国の平均月給で見ると未だに日本には優位性が見られます(下図)が、今後その差は急速に埋まっていくと考えて良いでしょう。
実際に弊社で支援しているベトナム特定技能人材も、母国ベトナムで約10万円程の月給を貰える仕事があるということで、「もう日本で働かなくても良いかな」というようなことを仰ってました。
(各種統計より作成 ©︎Lift.inc)
②中国の経済成長と少子高齢化
読者のみなさんもご存知のように、この20年間で中国は圧倒的な経済成長を遂げました。下図は名目GDPシェアの推移です。
(国際連合 IMFデータより作成 ©︎Lift.inc)
上のグラフからは多くの変化が読み取れますが、本記事では1990年に1.7%のシェアに過ぎなかった中国が2022年には約10倍の18.4%になる見込みであることに焦点を当てます。
この成長を支えているのが人口に対する豊富な労働力です。中国はいわゆる*人口ボーナス期にこれだけの成長を遂げました。しかしもっとも生産年齢人口の増加が活発化する時期が2010年に終了し、高齢化が急速に進行すると言われています。
※人口ボーナス期とは:生産年齢人口(15歳ー64歳の人口)が従属人口(15歳未満と65歳以上の人口の総数)の2倍以上いる期間。ほとんどの国ではこの期間に高い経済成長率を記録する。
下は中華人民共和国の年齢層別人口推移予測です。(単位 千人)
(World Population Prospects, the 2017 Revisionより作成 ©︎Lift.inc)
少子高齢化の原因には一人っ子政策などの様々な要因が考えられますが、重要なことは今後中国も日本と同様に海外からの労働力獲得に本腰を入れるということです。2050年には労働年齢が現在から2億人も減少するため、中国が本気になった際に、労働力受給に与える影響は日本の比ではないと考えられます。さらに、中国は日本とは違い人材供給国と陸続きであるため、島国の日本よりも出稼ぎ先として選ばれやすいことが考えられます。
(外国人材受け入れ競争のイメージ図 ©︎Lift.inc)
③日本の労働環境についてSNSで情報が拡散する
最後は現在もっとも深刻な話です。現在Facebookやラインなどの各SNSツールの発展により「風評」の持つ力が非常に高まっています。特に「Facebookグループ」の持つ力には凄まじいものがあります。現在日本に在留している外国籍の方の多くが日本企業で働くことに関する情報を共有するFacebookグループに属しています。このグループでは多くの方が想像するより非常に活発な情報交換が行われており、特に法令違反を繰り返すブラック企業の情報は一瞬で拡散されます。当然そういったブラック企業は日本企業の中でもごく少数に限られますが、悪いニュースほどより強い印象を残してしまうものです。法令違反を繰り返すブラック企業を撲滅しなければ、アジア諸国からのイメージが、「日本で働く=劣悪な環境で働かされる」に変わってしまうでしょう。
(あるフェイスブックグループのスクリーンショット。北海道の介護企業で働いていた台湾の方が、研修段階だからと給料が支払われなかったことが記載されている。こういった負の情報は瞬く間に広まっていく。)
外国人材に「選ばれる」企業になるために今打つべき2つの施策
「ベトナムや中国の賃金水準が上がって日本に来るインセンティブが働かなくなるならば、より貧しい国(バングラデシュやミャンマー)に切り替えていこう」というのも一つの手ではあります。しかし、結局はどこの国も経済発展をしていけば同じ結果になりますので、経済格差を利用して外国人材を確保するという視点だけではなく、どの国の人材であっても「働きたい」と思える組織体制を構築することの方が長期的に見ると重要ではないでしょうか。
①今いる外国人従業員と信頼関係を深化させる。
外国人従業員と信頼関係を築くには、給与・福利厚生、労働環境などの「目に見える条件」と、職場の雰囲気や人間関係などの「目に見えない条件」の2軸で考える必要があります。「目に見える条件」の改善のためには、各種助成金を活用し生産性の向上を目指しましょう。ただ、なかなか厳しい場合も多いのでまずは、「目に見えない条件」の改善を成し遂げましょう。こちらは何も特別難しいことをしなければならないわけではなく、締めるところは締めつつも、職場に笑顔を増やして行くことです。ひどい人間関係の中で働きたくないことは世界共通です。いい雰囲気を作ることができれば、ひょっとするとSNSでポジティブキャンペーンをしてもらえるかもしれませんよ。
②外国人材は外国人材が管理する組織体制の構築
(令和時代の組織体制イメージ図 ©︎Lift.inc)
なぜこれが必要であるかというと、結局のところ外国籍の方が日本で働く際にネックになるのは、「日本語」だからです。もし仮に日本語が流暢で日本人社員と外国人従業員の間を取り持つことができるバイリンガル人材が先輩にいれば、安心感を持って働くことができます。職場を選択する際に、母国語を話す上司のもとで働けることは大きな利点になります。また企業側の視点でいうと、一人日本語が流暢なバイリンガル人材がいることで、他のそこまで日本語が得意ではない外国人材とのコミュニケーションが円滑になり、離職防止になるだけではなく、仕事の生産性向上にも繋がります。この組織体制の実現方法は下の2点です。
- 日本での経験豊富な「技術・人文知識・国際業務」資格者を中途採用する。
- 「特定技能」特定技能資格者を「技能実習生」の管理者にする。
日本人はどう考えても隣人と仲良く一緒に仕事をしていく必要があります。それをポジティブに捉えませんか?
なぜここまで外国籍の方が働きやすい職場を作るように情報発信しているのかというと、外国籍の方に日本に来ていただかなければ、日本企業は今後やって行けないからです。下図は日本の職種別有効求人倍率を表しています。
(厚労省 一般職業紹介状況(平成31年1月分)より作成 ©︎Lift.inc)
上記の表では、有効求人倍率が5.0以上がオレンジ色、1.0以上、5.0未満が白、1.0未満が青になっています。この表からは様々なことが読み取れますが、ここで強調したいのは、「仕事はあるのに担い手がいない業界・業種」が大半だということです。
さらに、この状況は少子高齢化に伴い今後も深刻化していきます。下図をご覧ください。
(今後ますます少子高齢化は加速していく。)
高齢化率(65歳以上人口の割合)は右肩上がりで伸びていくにも関わらず、生産年齢人口(15〜64歳)は年々縮小していきます。「仕事があるのに担い手がいない」状況はより悪化していくのです。政府は「生産性向上」や「女性の活躍」だけではこの状況を打破できないと判断し、「出入国管理及び入国管理法」の改正を決断しました。しかしこの決断は5年遅かったと言えます。先に示したように、中国などの他のアジア先進国との人材争奪戦の様相を呈し始めたからです。数年後の自社の採用に不安がある企業の経営者は手遅れになる前に外国籍の方の受け入れを進める必要があります。
各国特集
近年、外国人材の市場が加熱しており、多くの人材会社が、「〜人を雇用する際の注意点」や「〜人マネジメントの手法」といったセミナーを開催したり資料を作ったりしてます。
しかし、人材会社が発信する各国人材の特徴についての情報は、数少ないサンプルからいい加減にイメージされたステレオタイプの域を出ていないものがほとんどです。もちろん、宗教上の問題など最低限押さえておかなければならない特徴はありますが、実際のマネジメントはもっと複雑なもので「〜人の特徴」や「〜人マネジメントの手法」を読んだところで組織への包摂が上手くいくわけではありません。
ステレオタイプに収まらない複雑な実態を知るためには、各国の事情に精通しているいる方々からの情報が何よりも大切です。
そこで私たちは、実際にそれぞれの国で事業を営まれている方にインタビューをさせていただき、リアルな声を反映させたコンテンツを作成しました。
同じ国の人材について語っていても違うことを言っているというのもありますが、いい加減な「〜人の特徴」といった資料より遥かに価値のある内容ですので、ぜひご覧ください。
まとめ
以上、外国籍の方と協働する必要性を訴えるため、「〜しなければならない」という文体でここまで記述して参りましたが、外国籍の方と共に働くことは非常にポジティブなことです。なぜなら今までなかった新たな視点や知見を得ることができたり、職場の雰囲気がフレッシュになったりするからです。これは私自身が多くの外国籍の方と働いてきた中での実感であり、またこれまでにご紹介した多くの企業様の事例を観察して得られた洞察でもあります。
誰でも初めてのことに挑戦するのは不安ですし、時にストレスを伴う場合があります。外国籍の方と共に働くことも例外ではなく、トラブルに発展してしまうこともあるでしょう。しかし日本の状況を考えるとそういった負の側面はどうしても乗り越えなければならないものです。どうせやるならポジティブに捉えましょう!私たちはより多くの幸せな事例を作って行けるように、これからも精進してまいります!