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更新日:2021/08/03

目次

【ケーススタディで学ぶ技能実習】

技能実習制度の活用を考えているが、「極端な悲しいニュース」や、「信頼できないセールストーク」ばかりで決断の参考にならないとお悩みの経営者の方も多いのではないでしょうか?

やはり思い切った決断をする前には、メリットもデメリットも事実を元に検討を重ねたいところです。

そこで今回は複数の監理団体を取材した内容を元に「受け入れた実習生が配属後1月経って帰国したいと言い始めた」というトラブルのケーススタディを作成しました。

本記事を通じて、実習生を受け入れた場合に生じうる負の側面を理解していただくことができます。

本記事が健全な経営判断のための一助となれば幸いです。

登場人物・企業

  1. 有限会社A組 (とび工事を専門にしている建設会社)
  2. 実習生のBさん(A組で実習中のベトナム人技能実習生)
  3. 送り出し機関C (Bさんが利用したベトナムの送り出し機関)
  4. D建設 (送り出し機関の架空求人で利用された大手建設会社)
  5. R企画 (同じく会社情報を不正利用された大手建設会社)
  6. 監理団体(A組の実習が適正に行われているか監理する団体)

とび職で5月に受け入れた実習生が6月に帰国したいと告白。何が起きたのか?

有限会社A組は2019年の5月にとび職でベトナム人技能実習生4名の受け入れを開始した。監理団体のベトナム人通訳サポート担当者の協力もあり、万事問題なく実習を開始できたと思っていた矢先、実習生のBさんが

とび作業だけをするとは聞いていない自分には重い資材を運ぶ体力がなく、今後やっていける自信がない。万が一事故でも起こした場合に会社に迷惑をかけると申し訳ないので帰国したい。

と社員に打ち明けた。監理団体のベトナム人スタッフが根気強くヒアリングし、状況の把握に務めた結果、次のような事実が浮かび上がってきた。

架空求人の存在

スクリーンショット 2019-08-07 18.27.07

↑送り出し機関Cが使用していた架空の求人票(イメージ)

2018年8月5日にBさんはD建設の求人票を見て「内装(左官、タイル貼り)職」に応募した。結果、送り出し機関Cで行われた面接に合格し、8月7日から就労前の日本語学習を開始した。

※D建設に問い合わせたところ、そもそもその職種での求人は行なっていなかった。送り出し機関Cが作成した架空求人票であると考えられる。

その後送り出し機関Cから他社の面接に人数合わせで参加するように依頼されるようになった。

面接を受けるだけで良いから参加して欲しい。合格しても、受かったら違う人が行くから大丈夫。Bさんは必ず2018年の8月に合格したD建設に行きます。

と言われ4社面接を受けた。(全て不合格)

雇用条件書のすり替え

スクリーンショット 2019-08-07 18.40.06↑雇用契約書イメージ

その後もBさんはD建設で技能実習すると信じて学習を続けていたが、10月に面接5社目となった有限会社A組に合格した。とび職での募集だったため、実技試験で足場の組み立てを行った。Aさんは、これまでに受けた試験が全て内装の試験だったため不思議に思ったが、送り出し機関Cからは、

左官やタイル張りの実技試験の材料が用意できないから、代わりに足場の試験を行う。

と聞かされていた。

またその場で雇用条件書にサインさせないことを疑問に思った有限会社A組の社員がその旨を送り出し機関の職員に尋ねると、

後ほど詳細をベトナム語で説明して、サインをさせます。」

と回答を受け、その場では納得してしまった。

しかし、その後もBさんは有限会社A組の雇用条件書にサインするとはなく、D建設に行くことを信じて日本語の学習を続けていた。

11月の中旬に有限会社A組の面接で合格したことが気がかりとなり、再度送り出し機関Cの募集部の社員に

私は日本に行ったらどんな仕事をしますか?

と聞いたところ、

総合建設の仕事。もちろんD建設で働く。足場を使うこともある。

と説明を受けた。BさんはD建設で働くことには間違いないと思い、そのまま学習を継続することにした。

2018年12月にBさんは突然全く聞いたことのない株式会社R企画の会社情報が渡され、

あなたは、この会社に行く。重要な書類なのでサインするように。

と言われた。

突然のことで驚いたが、作業内容がD建設と同じ総合建設(塗装、タイル張り、機械施工)だったためサインをしてしまった。

※その後会社名とサインする箇所が別紙だったことが判明。送り出し機関職員はこの時に「有限会社A組」の雇用条件書にサインさせられたと考えられる。

従事する職種に対する説明不足

 

スクリーンショット 2019-08-07 18.36.56

↑3月に仕事内容について確認しようと思ったAと募集部社員とのやり取り

上図は実習開始を前に、仕事内容について深く予習しておこうと思ったBさんと募集部社員とのやり取りだが、募集部社員の対応が杜撰なものだったことが伺える。

その後実習を目前に実習先は「有限会社A組」であることが判明したが、在留資格も降りていたため、渡航を承諾した。

あとの流れは冒頭で示した通りである。

どのようにトラブルは対処されたか?

監理団体の職員から事の経緯を聞いた有限会社A組はBさんの状況を理解し、重い資材を持たせるなどの無理はさせずに、前向きにBさんと働いていくことを希望。

Bさんも、

仕事内容の配慮をしてもらえたので、現在の仕事の負荷なら頑張れます。義理の父の入院代を稼ぐために、日本で引き続き頑張ります。

と言い、継続して頑張っていく事を決めた。

有限会社A組の社員がBさんの事をニックネームで呼ぶほど良好な関係を築いていたことも大きな問題に発展しなかった理由の一つである。

なぜこのような問題が生じてしまったのか?

この問題は送り出し機関の担当職員が不誠実だったという表面的な説明では片付けられない。そのような不誠実な行為をせざるを得なくなってしまった背景には建設業に対する悪いイメージと、送り出しビジネスの構造的な問題が存在している。それぞれ見ていこう。

背景にある問題①ベトナムにおける建設業、特にとび職の不人気

まず第一の問題として、ベトナムにおいて建設業が不人気だということがあげられる。

建設業、特にとび職において実習生に暴言や注意の意味での暴力行為を行っている受け入れ企業の情報がSNS、特にFacebookを通じて広く拡散されており、同業種では正直に集めても候補者が集まらないのが現実である。

過去の悪しき行いががこの状況を生み出してしまった。

背景にある問題②ビジネスモデルの問題

送り出し機関が候補者を日本に送ることで受け取れる報酬は法律で上限が定められている。よって利益を追求するためには、技能実習生をサポートする人員を削減する一方で送り出す人数を増やすしかない。

つまり、候補者のサポートを担当する人間はより少なく、送り出す人数はより多くしていかなければならない状況にある。

そのため真面目に事業を行っている送り出し機関ほど儲けが少ないというジレンマが起きてしまっている。以前関係のあった送り出し機関の職員はそういった状況を嘆き、

キックバックを得ようか迷っている。

とこぼしていた。全力で止めたが、苦しい状況にあることは間違いない。

どのような対策を講ずれば良いか?

企業側は内定承諾書をその場で記入させないことに対して深く警戒をするべきだった。近年悪質な送り出し機関は減少しているとはいえ、依然としてこういったトラブルは生じてしまっている。注意を怠らないようにしたい。

また今後実習制度を活用する企業がこのような事態を防ぐためにとるべき対策は以下の二つである。

信頼できる送り出し機関、監理団体を利用

現在ベトナムには300以上の認定送り出し機関が存在しており、また監理団体(一般)に関しても日本に1260団体存在している。これほど多いとどこが誠実に活動しているのか、なかなか一企業で全体像を掴むことは難しい。

最も賢明な方法は同業者の知り合いが使っている団体を活用することだ。技能実習生を活用している日本企業はもはや珍しくない。商工会議所の集会や青年会などの集会で知り合いの社長と情報交換すると良いだろう。

ただし、できればそれだけではなく、自分でも広く情報収集をすることを心掛けたい。実際に活用するかどうかは別として多くの団体に一度問い合わせをし比較検討することで、誠実な団体かの見極めができるようになる。初めての事に挑戦するからこそ、慎重に情報収集を重ねたい。

監理団体のフォロー体制を確認

監理団体を確認する際にもっとも大事なのは、実習生のフォローを担当するバイリンガルスタッフがどれほど充実しているかどうかである。

監理団体側に迅速なトラブル対応ができるベトナム人スタッフが在籍しているおかげで早めの深刻な自体になるのを防げている場合も多い。

その他実習生の要望や不安を吸い上げたり、逆に受け入れ企業側の要望を実習生に伝えたりしたい場合に、迅速に対応できるバイリンガルスタッフの存在は不可欠となる。この点の確認を怠らないようにしたい。

まとめ

今回はケーススタディを通して、技能実習生受け入れの際に生じたトラブルを疑似体験していただきました。異なる言語及び文化的背景を有する方と共に働いていくのですからトラブルはつきものです。以前取材させていただいたある経営者の方は、

リスクヘッジよりもリスクマネジメントの方が重要それは完璧にリスクを予想しきることなど不可能だから。」

とおっしゃっていました。何かトラブルが生じた際に、関係者全員で協力しあいながら問題を解決していく。そんな姿勢が大切となっていくでしょう。

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