更新日:2023/12/06
目次
「事前に途中帰国の原因や様々な事例を理解しておき、技能実習生の帰国を未然に防ぎたい!」
確かに、受け入れた技能実習生に途中で帰国されてしまったら、
受け入れのための初期費用(渡航費用・住居費用)や
労力(住居探し・受け入れ態勢の準備)が無駄になり、
せっかくの試みも「やめときゃよかった。」と後悔だけが残る結果になってしまいます。
実は、途中帰国で困るのは受け入れ企業だけではありません。
技能実習生本人としても、3年間働いた上での人生設計も台無しになりますし、
監理団体(組合)も普段の業務に途中帰国の手続きなど業務負担ばかり増えてしまいます。
今回は、そんな関係者全員を不幸にする途中帰国が生じる原因について、
2人の監理団体(組合)職員さんに最近起こった事例を踏まえて教えて頂きました。
技能実習生の受け入れは、とにかく石橋を叩いて渡ることが大切です。
今回紹介する事例を通じて、途中帰国が生じてしまう原因と
それを未然に防ぐために企業ができる対策を理解しておきましょう。
なお、企業名および技能実習生の個人情報は非公開とします。
▶︎ 技能実習生のトラブル事例をまとめた記事はこちら
⑴ 事例①:休みの理由は後遺症の痛みだったが…
以下、監理団体(組合)職員 Aさんのお話を要約します。
01 「受け入れの経緯」と「実習状況」
関東一帯で建設業のとび工事を専門に営むA社は、同業(とび・解体作業)のB社から
技能実習制度について紹介を受け、トントン拍子で受け入れが決まった。
技能実習生の受け入れを開始した理由は最近、現場で技能実習生を見ない日はなく、
自社での受け入れに興味を持っていた時に、同業者からも紹介を受けて、
「自社でもチャレンジしよう!」と受け入れを決断された。
A社(役員)は、「建設業界の労働環境も変えていかなければいけない」という考えのもと、
昔ながらの暴力(ミスがあった時に頭を殴る…など),
怒鳴る等の悪習を絶たなければいけないと考え、技能実習生に対しては、
日本人従業員以上に暴力・怒鳴る・いじめをしないように全従業員に言い聞かせていた。
2019年1月初旬から実際に実習を開始すると、日本人従業員も
「実習生2名が来てくれて助かっている」
現場での評価も高く、人間関係も良好で非常に良いスタートを切った。
手取り金額の平均が13万円~15万円。
母国への仕送りも十分な額を行うことができ、当初は技能実習生も非常に喜んでいた。
(「技能実習生の手取り」は日本人の手取り金額とは異なり、
『家賃・水道光熱費・通信費を給与から控除された金額』になるため、
実質の額面金額に換算すると、18万円~20万円になる。)
ただし繁忙期には、日本人同様に休日出勤をする月もあった。
02 問題の概要
2019年9月の面談時、技能実習生のフンさん(仮名)が急に「途中帰国したい」と申し出があった。
理由としては、
「幼少期の交通事故で後遺症(手術後、季節の変わり目になると手術痕が痛む)があり、
最近は強く痛みが出るため、肉体労働を続けられず、このまま続けると健康面が不安で仕方ない。」
A社は監理団体(組合)に相談し、3者間で今後について話し合いを行った。
フンさんからは「重量物を運ぶ等の肉体的にきつくない作業であれば継続できる」と話した。
A社もフンさんは、たしかに体力の点では他の人と比べて負けてしまう部分があるが、
代わりに手先が器用で細かい手元作業は人一倍に活躍し、性格も良く頑張ってくれているため、
3年間ぜひ残って頑張って欲しい、と技能実習生本人の意思を尊重することを約束する。
A社は重量物を扱うような負担がかかる作業を極力行わせないように調整し、
フンさんが働きやすい環境を作るための対策を講じた。
仕事面以外にも、従業員同士のコミュニケーションを増やし、少しでも早く従業員と
打ち明けてもらうために、飲み会を始めとした会社行事を積極的に開催する等の努力をしていた。
2ヶ月後の11月8日(土) 夜20:00頃、監理団体(組合)の通訳にフンさんから連絡があった。
「手術跡が痛むので翌日の仕事を休みたい。会社に伝えてくれませんか?」
企業は監理団体(組合)の通訳からの報告を受け、体調不良ということで休みの許可を出した。
11月10日(日)、フンさんは同じく「体調不良のため、翌朝の仕事を休みたい。」と直接社長に連絡。
「3日経っても体調が優れない」と連絡があったため、
技能実習生の体調を心配した社長が自ら、実習生寮に訪問すると
フンさんはソファーでくつろぎながらタブレット端末でゲームをしていた。
社長からフンさんに「本当に明日仕事を休まなければいけないほど体調不良なのか」と問いただすと、
「明日は仕事できます」となり、11日は仕事に出ることになった。
A社としては本当に体調不良なのか、実習意欲が低下したためなのか、判断がつかなかったため、
翌日に監理団体(組合)を含めて、再度3者間で話し合いの場を設けた。
11月11日(月)に監理団体(組合)職員,送り出し機関職員,通訳,社長,フンさんで面談を実施。
フンさんは終始「自分の健康が心配なため、ベトナムに帰りたい」と発言。
しかし、社長に席を外してもらい、監理団体(組合)職員と通訳で
本当のことを話して欲しいと尋ねたところ、実情は実習意思の低下による帰国希望だった。
社長は会社としても、意欲のない人間に現場に来られてしまうと、
事故に繋がりかねないとして、途中帰国に合意。
実習開始から1年満たず、途中帰国することに決まった。
⑵ 事例②:昔の傷が原因と言っていたが…
次に、監理団体(組合)職員Bさんの話を要約します。
01 「受け入れ経緯」と「実習状況」
関東で建設業(とび・解体作業)を営んでいるC社もA社同様に、
周囲で話題になっていた技能実習生の受け入れに挑戦することに。
2019年6月の配属日、C社は待ちに待った技能実習生の配属を喜び、全社で歓迎。
「これから3年間、C社に来て良かったと思えるように、
会社も努力していくので一緒に頑張ろう。」と激励の声をかけた。
実際C社は技能実習生に優しく、ここで働いて良かったと思ってもらえるようにと、
休日でも買い物に付き合ったりなど、良く面倒を見ていた。
02 問題の概要
配属から4ヶ月程が経過した2019年10月中旬頃、アインさん(仮名)から監理団体(組合)へ
「ベトナムにいた時に肺を患ったことがあり、今の仕事が体力的に厳しいので帰国したい。」
と連絡があり、C社もアインさんの体調を考慮してすぐに病院へ連れて行き、
病状を正しく医者に伝えられるよう、C社は監理団体(組合)に通訳の手配を依頼した。
ベトナムでアインさんと面談した際の履歴書には肺の病気を患った等の記載が一切なく、
監理団体(組合)を通して送り出し機関にも確認をしたが、送り出し機関も把握していなかった。
後日、検査結果は異状無しと診断された。
送り出し機関からの情報を含め、アインさんに改めて確認をしたところ、
「ベトナム時代に肺を患っていたが、病院には行かずに薬を飲んで治した」と話したそうだ。
監理団体(組合)としては、本当の退職理由は実習意欲の低下だが、
「病気を理由にして辞めようとしているではないか」と疑いがあった。
やる気のない人がいても現場で事故に繋がるだけなので、
本人の希望通り帰国させることをC社に提案した。
ただ、C社はアインさんが面接の時に話していた目標や将来の夢が叶わなくなってしまう、
また来日するために少なくない費用をかけていることもあり、
何とかアインさんを応援したいと思い、従事する業務を見直すことにした。
重量物を運ぶなどの体力的に厳しい仕事から軽作業へと配置転換し、
肉体的に苦しいそうに見えた際には、本人が自己申告する前に十分な休憩をとってもらうようにした。
C社の努力とは裏腹に、体力的な負荷が軽減されても帰国の意思は変わらなかった。
結果、体調不良を訴え出してから1カ月後の11月に中旬頃に途中帰国することになった。
⑶ なぜ途中帰国が生じてしまったのか?
監理団体(組合)職員Aさん,Bさんの話から、2つの事例の原因は共通していることが分かった。
ここからは、途中帰国が生じた原因をまとめていきます。
01 途中帰国が生じる原因
2つの事例をもとに、技能実習生が帰国したいと考える原因の1つに日本で実習する際の
『技能実習生自身のイメージと現実の間に大きなギャップがあること』が考えられます。
事例①・②ともに、海外現地にいた頃に考えていた働き方と実際の現場作業の辛さが、
日本に来る前の想定を上回ってしまったことが、実習意欲の低下に繋がったと考えられます。
02 途中帰国が生じる背景
「技能実習生の面接方法」にも原因があると考えられます。
◆ 面接の選抜方法
① 簡単な学力試験
② 体力試験
③ 面接
④ 合格者の家族との面談
② 体力試験は、何分間腕立て伏せをできるか、重りを持った50m走など、
簡単なものばかりとなっているので、当該試験で1番成績が良くても、
実際の日本での仕事(足場材の上げ下ろしを1日中行うことや高所作業…など)に
耐えられるかどうかまでは見極めることができていません。
現場作業を改めて理解する場として、④ 合格者の家族との面談の際に
「作業中の写真や動画」を見てもらっていますが、実際に体験しているわけではないため、
どの程度辛いのか想像ができず、採用のミスマッチが生まれているのではないかと考えられます。
⑷ どうすれば途中帰国を防ぐことができるのか?
ここまでの内容を踏まえると、「面接方法を工夫すること」が挙げられます。
具体的には、心を鬼にして日本の建設業の辛さを体験出来るような
長時間の重量物の運搬や実際に3~4階での高所作業を経験してもらう等の
現場に近いハードな経験をもとにした試験を課すことが有効だと考えられます。
ミスマッチが生まれると関係者全員にとって不幸な結果に終わり、
とりわけ技能実習生には借金だけが残る。
技能実習生のためにも面接は、非情に徹すべきだろう。
⑸ まとめ
今回は、受け入れ企業が変わろうと努めても、技能実習生側の日本で働くことに対する認識が甘いと途中帰国は生じてしまう可能性が高いということが分かる事例でした。
働きやすい環境を作り、生産性を高めることに投資する企業努力は今後も継続が必要ですが、それだけではなく技能実習生が日本に来る前から、「日本で働くことは自分が思っている以上に厳しい」と、認識できる試験を実施することが大切なようです。