更新日:2021/06/17
目次
「N4とかN2って言われても、実際にどれくらい日本語ができる人材かイメージできない」
「基本的な会話は大丈夫と思ってたけど、いざ一緒に働いてみると日本語が通じない」
「入社後も勉強しているみたいだけど、いまいち進歩が見えない」
今まで多くの企業とお話をしてきましたが、外国人材の日本語力は、企業が頭を悩ます最大の課題といっても過言ではありません。
外国人材の日本語力向上のためには、下記2つのハードルを解決する必要があります。
①そもそも日本語力をどうやって測れば良いのか曖昧
最終的には各人材にあった学習方法を見つけることが重要ですが、本記事ではまず、適切な学習方法を考えるにあたり前提となる「日本語力を測る基準」について整理をしていきます。
主要日本語試験一覧
日本語力を測る基準として、まず思い付くのは、各種日本語試験です。では、数ある中で最も正確に日本語力を測定でき、採用や評価の基準として有効な試験はどれなのでしょうか?
①日本語能力試験
■概要:「言語知識(文字・語彙・文法)」「読解」「聴解」の3区分から言語コミュニケーション能力を測るマークシート方式の試験。
■級(レベル):1級〜5級の5つのレベルの試験(1級の方がレベルが高い)。
■判定基準:180点満点の内、各レベルに応じて定められている合格点と上記3区分ごとの基準点の両方に達する必要がある。
*N1合格点:100点
*N2合格点:90点
*N3合格点:95点
*N4合格点:90点
*N5合格点:80点
■開催頻度:年2回(7月、12月の第一日曜日)
■開催場所:日本を含め86の国・地域(2018年度実績)
■受験料:5,500円(日本の場合)
■HP:https://www.jlpt.jp/index.html
②国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)
■概要:「文字と語彙」「会話と表現」「聴解」「読解」の4セクションから「ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力」があるかどうかを判定するCBT試験です。
■級(レベル):JF日本語教育スタンダードにおけるA2レベルの日本語力を持っているか判定。
*A2の目安は、「日常的な範囲」において、自身に「直接的な必要性のある領域の事柄」に関し、よく使われる表現を理解し、簡単な言葉で説明することができるレベル。A2レベルに相当していると「就労のために必要なある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力」を有していると判断される。
■判定基準:250点満点の内、判定基準点である200点以上獲得で、上記A2レベルに相当すると判定される。
■開催頻度:随時(1度受験すると次の受験まで30日間空ける必要あり)
■開催場所:下記9か国のテストセンター
*ベトナム・インドネシア・フィリピン・ミャンマー・ネパール・カンボジア ・タイ・モンゴル・日本
■受験料:7,000円(日本の場合)
■HP:https://www.jpf.go.jp/jft-basic/index.html
③日本語NAT-TEST
■概要:「文字・語彙」「聴解」「読解」の3分野から日本語能力を測定する試験。出題の基準と構成は日本語能力試験に沿っている。
■級(レベル):1級〜5級の5つのレベルの試験(1級の方がレベルが高い)。
■判定基準:180点満点の内、総得点が合格点(毎回変動)を上回っていること、上記3分野の得点が配点の25%以上を占めることが合格条件となっています。
■開催頻度:年6回
*2021年は、2月・4月・6月・8月・10月・12月
■開催場所:下記16か国
*中国・ベトナム・ネパール・ミャンマー・インドネシア・スリランカ ・モンゴル・カンボジア ・バングラデシュ・フィリピン・インド・タイ・ウズベキスタン ・ブータン・キルギス・日本(東京・大阪)
■受験料:5,500円(日本の場合)
■HP:http://www.nat-test.com/index.html
④J.TEST 実用日本語検定
■概要:聴解問題と聴解問題から構成されており聴解の比重が半分を占める、記述式問題がある(F-Gレベル除く)という特色を持つ、実践的な日本語力を評価する試験です。
■級(レベル):「A-Cレベル(上級者向け)」「D-Eレベル(初級〜中級者向け)」「F-Gレベル(入門社向け)」の3種類の試験。
■判定基準:各レベルごとに定められた基準点数をクリアすれば認定される。
*「A-Cレベル」は、1,000点満点の内、600点以上で認定(600点=N2相当、700点=N1相当)
*「D-Eレベル」は、700点満点の内、350点以上で認定(350点=N4相当、500点=N3相当)
*「F-Gレベル」は、350点満点の内、180点以上で認定(250点=N5相当)
■開催頻度:年6回+随時
*開催月は地域、級(レベル)によって異なる。
■開催場所:下記:14地域
*中国(大陸地域)・台湾・韓国・タイ・モンゴル・ベトナム・バングラデシュ ・インドネシア・フィリピン・ブラジル・ネパール・ミャンマー・ラオス ・日本
■受験料:5,200円(日本の場合)
*2021年3月試験まで4,800円
⑤BJTビジネス日本語能力テスト
■概要:日本のビジネス社会で使われる日本語能力を測定するCBT試験です。上述の試験と異なり、ビジネスコミュニケーションに特化しているのが特色です。
■級(レベル):J1+~J5までの6段階で評価される。
■判定基準:合否はなく、800点満点の試験で獲得点数に応じてレベルが振り分けられる。
*600点以上=J1+
*530点~599点=J1
*420~529点=J2
*320~419点=J3
*200~319点=J2
*199点以下=J5
■開催頻度:随時(1度受験すると次の受験まで3か月空ける必要あり)
■開催場所:下記14地域のテストセンター
*中国・香港・台湾・韓国・タイ・ベトナム・マレーシア・インドネシア・ミャンマー・インド・シンガポール・アメリカ・メキシコ・ブラジル・フランス・イギリス・ドイツ・イタリア・日本
■受験料:7,000円(日本の場合)
■HP:https://www.kanken.or.jp/bjt/
どのを基準にするべきか?
では、外国人材の日本語力を評価する際には、どの試験を基準とすれば良いのでしょうか?
ここでは、自社で雇用する人材の段階・レベルに応じて以下の3パターンを使い分けることをお勧めします。
入社前の技能実習生・特定技能外国人
まず、技能実習や特定技能で外国人材を採用する場合は、国際交流基金日本語基礎テストにおいて「就労のために必要なある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力」を有しているかどうかを判断しましょう。
そもそも、特定技能1号資格を得るためには、国際交流基金日本語基礎テスト合格が要件になっていますので、特定技能外国人を採用する際には、その人材が試験に合格しているか否かの確認は必須です(JLPT4級または技能実習2号を優良に修了で代替可能)。
また、技能実習において、送出機関が、入国前にNAT-TESTやJ.TESTを受験させてN4相当やN5相当の実力があると売り込んでおきながら、実際に日本に来てみると、全然コミュニケーションが取れないということもざらにありますので、今後は、より実態に即した日本語力を測るために、日本入国前の技能実習生についても国際交流基金日本語基礎テスト合格を目指して学習してもらうと良いでしょう。
入社後の技能実習生・特定技能外国人
JF日本語教育スタンダードに基づいている国際交流基金日本語基礎テストが、評価基準として最も的確かと思いますが、A2レベル(基礎段階の言語使用者)に相当するか否かだけを判定するものなので、それ以上のレベルにある人材に対しては、入社年度や各社員の日本語レベルに応じて、定期的に日本語能力試験を受験してもらいましょう。
NAT-TESTやJ.TESTに比べて開催頻度が少ないというデメリットはありますが、企業の人事評価体制を考えると年2回でも十分です。人材の評価項目と日本語能力試験を連動させるなどし、外国人材に日本語学習モチベーションを維持してもらう環境を整えましょう。
とはいえ、日本語能力試験だけでは、実践的な日本語力を適正に測定できないという話も企業様からお聞きします。実際に、満点の約半分の点数を取れれば合格してしまうマークシート方式の試験ですので、実力がなくても合格してしまった人がたくさんいても全く不思議ではありません。
ですので評価には正確を期したいという担当者様には、実施されている試験とは別に、後述のJF日本語教育スタンダードのレベル分類に基づき自社独自の指標を作ることをお勧めします。カスタマイズした基準の方が、試験よりも評価項目を詳細にでき、実際の力を的確に測ることが可能です。
高度なビジネスコミュニケーションを必要とする外国人材
日本語能力試験でも1級までいけば相当の日本語力があると評価できますが、ただ単に日本語力を測るのではなく、ビジネスで使える日本語力を身に付けているかどうかで評価したいという場合は、BJTビジネス日本語能力テストを評価基準に利用すると良いでしょう。ビジネスコミュニケーション力を測定することに特化した試験ですので、日本語能力試験だけでは物足りないというケースでは有効です。特に在留資格「技術・人文知識・国際業務」の人材においてはお勧めです。但し、あくまでも基本的な日本語力があることが前提ですので、N2を取得できていない人材の場合は、とりあえず日本語能力試験に標準を絞って教育することが必要です。
N2って凄いの?
上述の通り、現状では、日本語レベルの指標として日本語能力試験(JLPT)が使われることが一般的です。採用や評価の際も「日本語能力試験が何級か?」を基準にしている企業が多くなっています。
では、外国人に対してよく言われる「日本語ができる」や「日本語が上手い」というのは、一体どのくらいレベルを指すのでしょうか?
日本語能力試験ですと、1級が最も高いレベルですが、それぞれのレベル感としては、下記のように説明されています。
N1:幅広い場面で使われる日本語を理解することができる
N2:日常的な場面で使われる日本語の理解に加え、より幅広い場面で使われる日本語をある程度 理解することができる
N3:日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる
N4:基本的な日本語を理解することができる
N5:基本的な日本語をある程度理解することができる
「基本的」「ある程度」「幅広い場面」など言われても、あまりイメージができないのではないでしょうか?
学習時間として、N1は900時間、N2は600時間以上とされていますが、実際の日本語力と試験の級が解離しているケースが多いという問題もあります。「N1やN2を持ってたからといって業務上のコミュニケーションがスムーズに取れるわけではない」、「ものすごく話せるのにN3に落ちた」という事例を実際によく聞きます。
日本語能力試験の合格基準を見れば分かりますが、満点中およそ半分の点数を取れれば合格できてしまいます。マークシート方式で半分であれば、運で合格してしまう人がいても全くおかしくありません。
こういった試験では適正に評価をできないとなってしまうと、「とりあえず業務上のコミュニケーションが取れていれば良いや」ということになり、計画的に教育をすることもできず、評価も感覚的になってしてしまいがちです。それでも、コミュニケーション能力が高い人材やコミュニケーションを頻繁に取り合う風土がある企業であれば、ある程度までは日本語でのコミュニケーションが成立するでしょう。
しかし、業務やプライベートの時間を通じて日本人と頻繁にコミュニケーションを取ることができる人材ばかりではありません。そういった場合、日本で働いているうちにいつの間にか日本語が上達することはありません。また、コミュニケーション能力が高くて何とかなっている人材であっても基本的な学習を疎かにしてしまうと、成長には限界があります。やはり何かしからの指標に基づき学習を計画的に進めていく必要があります。
JF日本語教育スタンダード(JFスタンダード)という基準
「試験のための日本語ではなく、実際の仕事や生活で使える日本語を身に付けて欲しいけど、どのような基準に従って教育や評価をしたら良いか分からない」
そのような企業担当者様に注目していただきたいのが、JF日本語教育スタンダード(以下「JFスタンダード」)です。JFスタンダードとは、独立行政法人国際交流基金によって策定された日本語評価の枠組みです。
JFスタンダードの特徴は、「日本語を使って何がどのようにできるかという能力(Can-do)」で日本語の熟達度を測定している点です。
言語能力(話題の展開、語彙の使いこなし等)と言語活動(共同作業中にやりとりをする、店や公共機関でやりとりをする等)をカテゴリー分けし、それぞれのカテゴリーごとに「何がどのようにできるか(Can-do)」をレベル別に提示しています。これにより具体的な場面での日本語熟達度を測定し、実際の仕事や生活で使える日本語を身に付けているかどうかを評価できるようになります。
レベルは、C2・C1・B2・B1・A2・A1の6つに分類され、C2から高いレベルとなります。Cランクは「熟達した言語使用者」、Bランクは「自立した言語使用者」、Aランクは「基礎段階の言語使用者」と位置付けられています。
参考までに下記図は、JFスタンダードCan-doの6レベルを基に、「仕事」において「できること」のレベル感をまとめたものになります。
なお、1号特定技能外国人の日本語要件である国際交流基金日本語基礎テストは、このJFスタンダードのA2レベルに該当する日本語力を測る試験になり、A2レベルで「就労のために必要なある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力」を有しているとみなされます。しかし、先述のようにAランクは「基礎段階の言語使用者」という位置付けですので、中長期で日本で働き、生活していく人材ならば、「自立した言語使用者」であるBランクまで到達できるように雇用企業もサポートをしていくことが望ましいです。
まとめになりますが、
①知識ではなく、実際の仕事や生活で使える日本語の熟達度を基準としている
②国際交流基金日本語基礎テストの指標になるなど特定技能外国人受け入れの判断基準に使える
といった理由から、技能実習生や特定技能外国人を雇用している企業であれば、今後、JFスタンダードに則って研修計画や評価基準を策定することをお勧めいたします。
JFスタンダードの理念〜受け入れ企業に求められること〜
最後に、JFスタンダードの理念を紐解き、受け入れ企業に求められる姿勢・意識について提示します。
そもそも、JFスタンダードは、ヨーロッパの全ての言語学習に適用されるガイドラインであるCEFR(外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠)に準拠して策定された基準です。
「全ての言語学習に適用される」とあることからも分かるように、日本語だけでなく他の言語の習得度合いも上述のC2~A1という同じ枠組みで評価することができます。
そのため、JFスタンダードにおいて、日本語は、数多くある言語の1つであり、異なる文化を持った人と相互に交流するためのツールと位置付けられます。これは、「正しい日本語」を外国人材に押し付けるといった姿勢とは相入れません。CEFRやJFスタンダードを正しく活用するためには、「異なる文化や価値観を持った人間が共に生きていくこと」、そのために「言語によるコミュニケーションを通じて相互理解を促進していくこと」という理念を押さえておく必要があります。
こういったポイントを無視し、ただ単にC2~A1というレベル分類や学習計画だけを取り入れるだけだと、その背後にある「相互理解のための日本語」という本来の趣旨から離れ、効果も限定的になってしまいます。
外国人社員の日本語能力だけでなく、日本人社員の「異文化理解能力」も向上させ、共同で課題を遂行していく力を育てていくことが「相互理解のための日本語」の特徴です。JFスタンダードを利用した日本語教育をきっかけに、多様な人材が活躍できる組織づくりにまで踏み込んでいくことで、多様性の効用を最大限に得ることができるのではないでしょうか。