更新日:2021/07/15
目次
外国人労働者を雇用されている企業では日々様々な疑問が生じていることと思います。
健康保険も「日本人従業員と違うのか?」「注意しなければならないポイントはあるのか?」といったお問い合わせを頂戴することが多い項目の一つです。
今回は、外国人労働者も原則対象となる健康保険制度の基礎知識を整理していきます。
健康保険の加入が義務となる事業所
1. 法人事業所
法人事務所は強制適用事業所であり、原則として業種・人数に関係なく政府が運営する健康保険に加入しなければなりません。
2. 法人化されていない、個人営業の事業所
下記の業種で、常時5人以上の従業員を使用する事業所は強制適用事業所(法定16業種)となり加入は義務となります。
・製造業 ・土木建築業 ・鉱業 ・電気ガス事業 ・運送業 ・清掃業 ・物品販売業 ・金融保険業 ・保管賃貸業 ・媒介周旋業 ・集金案内広告業 ・教育研究調査業 ・医療保健業 ・通信報道業など
健康保険の加入が任意となる事業所
法定16業種の事業であり、常時5人未満の従業員を使用する個人営業の事業所
・第一次産業(農林・水産・畜産業)、接客業(旅館・料理店・飲食店・理容業など)、法務業(弁護士・税理士・公認会計士など)
*宗教法人は従業員数に関係なく加入は任意。
*当然ですが外国籍が経営する事業も例外なく、同様の規定が適用されます。
健康保険の加入対象は? 外国人は対象になるの?
原則
上記強制適用事務所に雇用される労働者は、国籍・性別・年齢などに関係なく全て「被保険者」(加入させなければならない労働者)となります。
つまり、外国人労働者であっても、日本人労働者と全く同様の雇用条件で働いているのであれば当然、健康保険に加入させなければならない労働者となります。
適用除外者
健康保険に加入させなくても良い「適用除外者」は以下のいずれかの要件を満たす方です。
- 船員保険の被保険者
- 所在地が一定しない事業所に使用される人
- 国民健康保険組合の事業所に使用される人
- 厚生労働大臣、健康保険組合または共済組合の承認を受けて一定期間、国民健康保険の被保険者になった人
- 長寿医療制度(後期高齢者医療制度)の被保険者等
- 季節的業務に使用される人(継続して4か月を超えて使用される場合を除く。)
- 臨時に使用される者であって、次の要件に該当する人
イ)日々雇い入れられる者
ロ)2か月以内の期間を定めて雇い入れられる者
- 臨時的事業の事業所に使用される人(継続して6か月を超えて使用されるべき場合を除く。)
*⑥、⑦、⑧については日雇特例被保険者として加入する場合は適用除外にはなりません
その他の場合
以上の原則と適用除外者以外の場合で、以下の場合には健康保険の加入義務はありません。
1. 被保険者が500名を超えない事業所であり、かつ以下の条件をを満たす。
①パートタイマー
*労働時間が正社員の1日、または、1週間の労働時間の4分の3以下である
*同時に、一ヶ月の労働時間の4分の3以下である
②外国人労働者
*社会保障協定締結国出身者で、出身国の健康保険制度に加入している場合
*社会保障協定締結国とは ドイツ イギリス 韓国 アメリカ ベルギー フランス カナダ オーストラリア オランダ チェコ(※) スペイン アイルランド ブラジル スイス ハンガリー インド ルクセンブルク フィリピン ( 署名済み、未発行、イタリア スロバキア 中国 )
2. 被保険者が501名以上の事業所であり、上記に2件に加えて次の要件を全て満たす場合
①1週間あたりの決まった労働時間が20時間を超えていないこと
②1か月あたりの決まった賃金が88,000円を超えていないこと
③ 雇用期間の見込が1年を超えないこと
④ 夜間・通信・定時制「以外」の学生であること。
健康保険と厚生年金保険
健康保険と厚生年金保険はセット加入が原則です。どちらか一方にしか入らないということはできません。よくある問題として、外国人従業員が厚生年金は掛け捨てになる為、健康保険にだけ入りたいとおっしゃる場合があります。
果たして、支払う厚生年金は掛け捨てになるのでしょうか?
実は、脱退一時金制度という掛け捨て防止のための制度があります。掛け捨てにはなりませんので、この制度を雇用する外国籍の方に説明すると良いでしょう。
詳しくは、外国人雇用と厚生年金のページをご覧ください。
使用者(事業主)も健康保険に入れるのか?
法人の代表取締役、個人事業主も、建国・厚生年金保険に加入可能です。当然ですが、代表取締役、個人事業主が外国籍の方であっても、当然同じ扱いとなります。
外国人社員が健康保険に入るメリットは?
1. 労働者本人の怪我や、病気に対する備えとなる。
健康保険に入っておくことで、日本で負傷、病気にかかって帰国した場合、帰国後も傷病手当金などの所得保障を受けることが可能です。
2. 海外在住の親族を日本で加入する健康保険に非扶養家族としてカバーできる。(要件を満たす必要あり。)
例えば、海外にいる家族が支払った医療費などに日本の健康保険から給付してもらえたり、本国に残してきた配偶者が出産する場合、健康保険から出産一時金の給付を受けたりすることができます。
これは非常に大きなメリットと言えるでしょう。
主たる要件
①配偶者(事実婚含む・年収130万円未満)
②子供・親(60歳以上の場合は年収180万円未満)
③弟、妹(年収130未満)
主たるコスト・労力
被扶養者となる家族の状況を公的に証明する書類を取り寄せ、日本語に翻訳して提出※1海外の非扶養家族が、自国で、日本の健康保険書を提示して医療を受けることはできません。一旦自費で建て替え後、領収書を日本の扶養者に送り、扶養者が申請することで、本人負担分を差し引いた額を日本円で受給することができます。
※2被扶養者が受けた治療内容が、日本の健康保険法の規則で、保険給付の対象として認められていない場合、給付を受けることはできません。
3. 在留資格の更新、変更に万全を期すことができる。
在留資格の更新、変更の際は保険証の提示が求められます。ここで提示できないことが理由で在留資格が認可されないということはないと明記されていますが、万全を期す為に加入しておくべきでしょう。
健康保険の保険料はいくら?
保険料率は、都道府県ごとに異なります。都道府県ごとの保険料はこちらを参照してください。また健康保険と厚生年金の保険料は1年ごとに改定されますので毎年確認しましょう。健康保険の保険料は、雇用主(会社)と労働者が折半し、半分は会社が払っていることの説明もすると、関係がより良くなる可能性があります。
まとめ
少子高齢化による労働力不足で悩んでいる国は日本だけではなく、今後その傾向はさらに加速していきます。東南アジア諸国と陸続きである中国が、外国人材の獲得に本腰を入れ始めると外国籍の方の採用が困難になって行くでしょう。今日本に来てくれる外国籍の方にはできるだけ良い環境で働き、日本で働くことに対するイメージを良いものにしなければなりません。この文脈を踏まえ、外国人を雇用する企業はただ法令遵守に終わるのではなく、個々の外国人社員との信頼関係の構築が、今後外国人に「選ばれる企業」として生き残っていく一助となるでしょう。
*その他外国人雇用の手続きに関しては「外国人雇用に必要な手続きとその注意点とは?」をご参照ください。